Berlinからの報告

キリストが生まれて既に2000年以上が経ったのに私達はまだ小さなことで悩んだり人と比べて落ち込んだり羨んだりしている。私達は歴史の中の小さな点に過ぎないけども、でも確かに存在する。自分を誇れる有意義な点でいたい。

契約書不在のフリーランス契約なんてダメ絶対!

暦は師走。そして、こちらベルリンは街中クリスマス一色。クリスマスマーケットでホットワインを飲んで家族とゆったりするのが素敵、そんな季節です。

 

私はというと、11月末から日本語トランスクライバー(オーデイオの書き起こしをする仕事)としてをある会社で短期で働いていましたが、どうもこの会社、コンプライアンス的に問題有りの様子でした。私は一介の労働者としての権利を死守すべくメールで戦っていたのですが、万策尽き、そろそろ戦いに幕を下ろそうかなと思います。前職はややブラックだったので一応その頃から会社に対して権利を主張したりしていたのですが、異国の地での戦は初めて。つくづく会社運(?)が無いなあと思いつつ、そろそろ気持ち切り替えていきます。でも切り替える前に、一通りの出来事をシェアするのも悪くないかなと思い書き始めたら、結構な長文になってしまいました!

では問題点を並べてみましょう。

まず、契約書が発行されませんでした。契約書についてはプロジェクト開始前から再三主張していたのですが、当初の対応は「君たちとはフリーランス契約なので契約書は必要ない」の一点張り。一旦マネージャーに「OK!今日作るね!」というユルい返事を口頭で貰った後、一切進捗なし。業務内容、給与、給与振り込み日等の情報はFBのメッセージ上とメールに有るのみ。これでは、途中で内容の一部が一方的に変更されても(実際変更されました)被雇用者側は全く文句が言えません。

確かに、契約書の無いフリーランス契約も有るには有るらしいです。ただ、今回被雇用者であるトランスクライバー約10人が各々に異なるビザを持っていることから契約書の不在は問題を招きそうなこと、(労働が禁止されているビザも勿論あります、でも会社側からのビザチェック一切無し)、そして私のような無職者でも月一定以上の金額を稼ぐ場合は納税義務が発生するわけで、そういう点からも契約書が絶対欲しかったのです。何より、A4一枚でちゃちゃっと1時間で作れそうなものを、そんなに渋るのが一層怪しかったのです。

一方、会社側からはNDA(秘密保持契約)へのサインを早くするようにと何度も釘を刺されていました。NDAへのサインは全く問題ありません。この書類にサインしたことで、被雇用者側は業務の詳細を口外することを禁じられた訳ですが、被雇用者の権利は契約書が無いので今の所全く保証されなかったということです。全体的に会社側のいいように全てが動いている感がしました。

先の契約内容が変更されたという話ですが、プロジェクト開始から一週間後、給与が変更されました。当初はオフィスに来て作業すれば、1時間の労働当たり10ユーロという合意でしたが、変更後は処理したオーディオの長さ単位で、つまり成果に応じての支払いに変更されました。

口頭で説明された理由は2つ。まず、会社側の予算不足。そして、我々日本語担当のトランスクライバーの仕事が遅いので(何を根拠に、、)、成果物単位にしたいとのこと。予算が足りないならクライアントに交渉するか、予算追加が無理ならプロジェクトの規模を縮小するかの話であって、トランスクライバーの給与を減らすというアメージングなアイデアにはちょっと閉口しました。ちなみに、変更後の給与はドイツの最低賃金以下になる計算になります(成果単位なのでここがクリアに見えにくいのですが)。この点についても会社側に異議申し立てましたが、暖簾に腕押し。そもそも変更前の給与についても曖昧で、分単位で計算されるのかが明らかではありませんでした。結果的に1時間以下は切り落とされることになっています。つまり、1時間55分働いた場合、55分は無賃金ということです。

契約書の不在以外にも、いろいろと不備が目につく会社でした。まず、プロジェクトマネージャーがプロジェクトの内容についての理解が驚くほど浅かったこと。クライアント側からトランスリプション業務についての注意事項及びルールがPDFで会社側に共有されていたにも関わらず、それをマネージャーはほぼ読んでいませんでした(そのPDFをよく読んでおいて!と私にメールしたにも関わらず本人ほぼ未読)。終いには私が内容について彼女に説明する始末、、、。会社側のプロジェクトメンバー数人は、お互いに情報共有が出来ていないのか、質問しても返ってくる答えが一致しない。

数日は交渉しつつも作業をしていましたが、給与変更の話が出てから会社への不信感が拭えなくなり、ひとまず私は作業をストップすることにしました。結局は契約書が無いので、給与が万が一支給されなくても、文句は言えません。今後どんな不当な変更を提示されるかわからないので、「契約書が発行されない限り私はこれ以上働きません」とマネージャへ一本メールを書きました。

すると彼女から返ってきたのは以下。「昨日オフィスで他の参加者に給与変更について説明して、彼らから理解を得ている。あなたも昨日来ると思った。いつあなたがオフィスに来られるか連絡して。」初めから問題だったのは、マネージャーが給与について口頭で変更の提案、決定を行っていたことです。メールか書面で情報やプロセスが残っていれば後から内容が証明できますが、会話は録音しない限り不可能です。そもそも、給与変更について話す場があったならば、「あなたも来ると思った」はとても無責任では、、?そもそも(根本的におかしいところがありすぎて、そもそもを使いすぎてしまう。)、他の人が変更に合意したというのは、私には無関係では?

何度こんな押し問答を経ても、返ってくるのは「オフィスに直接来て」の答えのみ。もちろん、交通費支給なし。何を言っても無理そうだ。私は途中でプロジェクトを降りることにしました。

すると、また新たな問題が発生。私が担当していたオーディオファイルを全て終わらせない限り、給料は支払えないと。「トランスクライバーには、1セット(80~100個の音声ファイルが入っている)単位で仕事を任せているので、セットを全て完了しないと賃金は支払えない。1セット全て処理されていないと、使い物にならない」そんなことはどこにも書いていなければ聞いたこともないので、即反論しました。ここでも契約書が無いことで、お互いに証拠を示せません。

さらに言えば、マネージャーはメール内の数字が間違っている(一度指摘してもまた間違っている)ことが多かったので、かなりのうっかりさんだったのかもしれません。「15時間も作業していたのに、14分間のオーデイオしか処理できていないのはおかしい(つまり、時間に対して成果が少なすぎる)」とも言われました。私は普通に作業をしただけのことで、その上私はずっと彼女と同じオフィスで働いていたので水増しできるわけも訳もなく。こんなことを言い出したらきりがないというか、どんな仕事に対しても理不尽なことが言えてしまいますよね。

 

私に対してだけでなく、他の日本語トランスクライバー達にも何度も「トランスリプションが遅い」「時間がかかりすぎる」という指摘が向けられたわけですが、私達は普通に作業しているだけなので、主観的にそう断定されてしまうのが理不尽だなあと思いました。ヨーロッパ系言語と比べ、日本語は変換する手間もあれば、音声中の相槌が多かったり、発音が曖昧だったりと、何かと手間と時間が掛かることは想像できます。会社側には日本語が解る人が一人も居ないので、その点が非常に理解されずらかったのかもしれません。単に数分の会話であっても、それを正確に文字に起こすのは、日本語ではなかなか骨の折れる作業です。そもそも、私達の起こした日本語テキストが直接エンドクライアントに行くらしいのです。つまり、内容をチェックする人間が一人も存在しないので、仮に大きな日本語のミスがあっても誰も気づかない可能性大です。マネージャーだけでなく、プロジェクトのチーフらしき人物2人にもCCでメールを共有していたのですが、彼らからの応答は一切無し。マネージャーがこんな適当なメールを返してるのに何もフォローアップは無しか、、途中からは組織としてダメなんだなあと思いつつやり取りしていました。

一つ付け足しておくと、この会社は外資系の翻訳会社です。世界中に支社があるらしく、社員はほぼ外国人で、ドイツ語を話す人はほぼいませんでした。一般的なドイツの企業と比べるとかなり例外的なので、このコンプライアンス意識の低さがどこに起因しているのか今でも不明です、、、。私の周りのドイツ人にこのことを話すと一様に「あり得ない」「そんな変な会社があるんだ」と答えてくれるので、ちょっとホッとしております。契約書を交わさない労働契約はドイツ語でSchwalz Arbeit、黒い労働と呼ぶらしいです。よくニュースでは工事現場で働く作業員達と建設会社間で起こる問題として取り上げられるらしく、一般に労働者が弱い立場の場合、会社側が法人税等を不正に操作するために契約書を発行しないのだとか。

今回の件がSchwalz Arbeitに当たるのかはわかりません。でも、最後まで屈しなかった自分を褒めてあげたい。普段から日本の友達に「ブラックな働き方だめ絶対だよ!」とコンプライアンス遵守思想を布教しているので、いくら小さな仕事でも変なところは最後までちゃんと主張したかったのです。